こちら説明書になります。 何がなにやらって方に、どうぞ
「いってくるよ」
若干14であろうか・・・・・まだ声の高い青年が家の中の住人に向け言った。
「・・・そんな年に・・・なったんだな。」
家主――すなわち彼の父親が、感慨深く言う。
「・・・いくんだな?」
「はい」
「気をつけてな。死ぬんじゃないぞ?」
「はい」
「渡した剣は持ったか?」
「はい」
少年の手には、父が幼少の冒険時代に使った宝剣がにぎられている。柄と剣とが十字に交差するところに紅く光る宝石が一対(表と裏)埋められていた。
「いいか。もし行くんだったら、お前が目指すものを見つけるまで帰ってくるな。男なら、剣士なら、最後までやり遂げるんだな。資金においても、行動においても、絶対に相談にはのらないからな。」
「わかっています。」
「そうか・・・・・。」
父は、騎士団仕込みの大きながたいをきちんと伸ばす。息子はくるりと後ろを向いた。
しかし息子は、そこでいったん、動きを止める。
「母さんに、よろしく。」
父は息を吐き出すように「おう!」といった。
「いってこい。」
大きな手に、背中を押され・・・・

息子は旅に出る。


CHAPTER One



少年は歩き続けて、見たことも聞いたこともないような街へたどり着いていた。
それもそのはず、何しろ自ら知らない道を選んで歩いていったのだから…。
以前父が行ったことがあるところはだいたいその話も聞き及んでいたので。どちらかといえばそっちにいくのが安全かもしれないが、何だか味気ないものにも少年には思われたのである…。
さて、宿屋に入ってみたものの、少年は主人と話をする気にはなれなかった。
周りに先輩の冒険者がたくさんいる。それだけならさして問題ではなさそうだが…。なんというか、少年には、その連中はなんだか自分とは根本に違うものを感じとった。おそらく話しかけたら旅立ち早々何か厄介なことが起こる。
そんな気が少年はしたのであった…。
仕方なく少年は宿を出て、そこらの店から、野菜や果物など、とりあえず今日と明日だけで食べれそうなものだけ買った。宿のことは夜になってからまた考えようと考えた。
少し歩いて、街の広場とも思しき場所に、少年はたどり着いた。八角形で中央に誰かも知らぬ冒険者のような像があり、東西南北から道がつながっている空間である。少年が来たのは南口からだ。時刻は夕方。人はあまりいなかった。それぞれが何かしらやっていて、こっちが何かをするのにとくに影響はなさそうだ。
少年は中央の像の台座のふもとに腰掛けて、さっき買った果物の中からりんごなどをとって食べていた。
そのかたわら剣を取り出し、柄に埋め込まれた一対の紅く光る宝石を眺めていた。夕日の光で照らされて真っ紅な宝石を眺めながら、いろいろなことを考えていた…。父のことや母のこと…。そして今新たな人生の一歩を踏み出した自分のこと…。
剣を見つめたままふと何気なく、取り出したみかんを上に投げた。…その少しあと、少年の手のひらは空を握った。
「…あれ?落ちてこない…?」
少年がはっと上を見上げると、さっき投げたみかんを片手に、台座の上から笑顔で見下ろす一人の人間の姿があった…。

「や!」
そいつは人間の・・・おそらくおない年くらいの女の子だった。
「・・・・・・どうも。」
少年は半分ほうけながら返答した。
「そんなに辛気臭い顔してると、ツキがにげるよ?」
「余計なお世話だ。」
「あはは♪」
台座の上から身軽に飛び降りる。姿格好、身のこなしからして、盗賊(シーフ)といったところだろう。
「とりあえずみかん、返してくれよ。」
「そんなケチしないで、半分分けてよ。」
「ん、まぁ、それならいいけどさ・・・これだって俺にとっては貴重な食料なんだぞ?」
「へ?家はないの?」
「今しがた、冒険者になるってでてきたんだ。」
それを聞いたそいつは軽快に、明るく笑った。
「おもしろそう!私も行ってもいい?」

何を急に言いだすのか。
急に現れたと思ったら人の貴重な食料(ミカン)を奪った挙げ句に旅に連れていけだと?
少々(と、言うかかなり)腹が立った少年は文句を言おうとして少女の方を向き
「・・・・・・・・っ!!」
息を飲み、時が止まった。
夕日に照らされ輝く淡い翠の瞳と燃える様な真紅の髪が、彼女を只の年相応の我侭な少女から幻想的な美しい女性へと変貌させていた。
思わず見惚れて固まってしまう少年。
「ん?どうかしたの?」
急に固まり自分の顔をじっと眺めて来る少年の視線の気付いたのか少女はミカンをもてあそんでいた手を安めて問いかけた。
少年の反応は無くボーッと彼女を眺めるのみ。
「どうしたの?」
少年の目の前で手を降ったりする少女。
少年、未だボーッとしたまま。
「どうしたっすか〜?もしかして死んだっすか〜?」
少女の物騒な問いにやっと我に帰る少年。
「生きてる!って言うか勝手に人を殺すな!」
「何だ、生きてたのか、死んでたらこのミカン丸々貰えたのに」
少年の問いにしれっと答える少女。
少年はその漂々とした態度と言い草に空いた口が塞がらなかった。
が、同時にこの不思議な少女とのかけあいをもう少し楽しもう思う彼がいた。
「で?」
少女が踊るような口調で言う。
「・・・で?」
少年は半分不機嫌そうに答える
「どこに行くの?」
「未定だ。家を出てきたばっかりといっただろう。」
もともとは戦士としての己(おのれ)を鍛えるための武者修行のつもりだったのだ。荒野ぐらいしか行く当ては無かった。コネもなければ、宿も取るつもりはなかった。
「じゃぁさ。」
眼を輝かせて少女は詰め寄る。
「ギルドの依頼、受けてみない?」
「はぁ?盗賊ギルドか?」
この世界には商売の共同体――いわば労働組合のようなものが多く存在する。商売人にはその職種により「織物ギルド」「武器商ギルド」などがある。また、魔法使いにも研究所とでもいうべき「魔術ギルド」がある
さて、その「盗賊ギルド」は「泥棒稼業」の名のとおり「盗む」ことを商売としているものの集まりである。盗賊に依頼する仕事は所謂「汚れる仕事」である。殺人依頼から宝物奪取依頼まで何でもござれである。そのため、大屋敷にはたいていトラップ(以降表記を「罠」とする)をしかけている。盗賊ギルド員はたいてい罠を解除する器用な人間しか入ってこない。だから、罠の多くある古代遺跡の発掘調査もよく依頼されるのだ。
「で、どんな依頼なんだよ。」
すると少女は小さな紙(どう見ても紙くず)を取り出した
「こ・れ。」
よく見ると、ギルドからの正式な依頼状だった。
なにせ紙がしわくちゃだからよく読めない依頼状だが、判もある。正真正銘だ。大まかにみたところ
「遺跡探索の依頼だな。」
「そう。なんだか、『アルフ』と呼ばれる小遺跡に『凍りし光線(ひかり)』っていう、サファイアに似たお宝があって、それが魔法の宝石らしいの。だけど、遺跡には数多くのトラップがあるんだって。で、魔術師ギルドのお偉方が頼んできて、それを受けたのが私。」
「ほう。んで?」
「行く当ても仕事も無いなら、報酬額も悪くないから、いっしょに行かない?」
少女の言うとおり、分の悪い仕事でもなさそうだ。支払いもいい。しかし実際どうしたものか…。なぜか始めの一歩を踏み出すことができなかった。
「ねえねえ、行くんだったらさっさとしなよ〜。」
…と腕を引っ張られて立ち上がったが、周りはもう暗くなり始めていた。それもそのはず。なにしろ、この広場に来たときにはすでに夕方だったのだから…。
「…あのなぁ、今から行くとか言い出すつもりか?もう暗くなっちゃうじゃあないか。明日でも遅くは無いだろ」といったが、
「でもでもぉ、あそこの宿屋雰囲気悪いでしょ。ここにはあいにくあれしかないし、あんなのでびびってちゃこの先何処に行っても泊まれないよ?」といってきた。びびってなんかいないと反論しかけたが、少女が続けた。「それに、夜になったって、暗いだけで別に大丈夫だって。行こうよ。」と。
「ちがう、夜は魔物の力が強まるし、普段は道とかに出てこないような強いのも山とかから下りて来る。」少年はこう反論したが、「そんなの3流冒険者の迷信よ。そんなことでびくびくしてたら、いつまでも英雄なんかになれっこないわね。」と少女が切り返した。
少年は、いつの間にかどうして自分が未来の英雄にされているのかと突っ込もうとしたが、またしても少女が先に口を開いた。
「そうだ。あんたの名前なんていうの?一緒に冒険するのに名も名乗らないなんて礼儀知らずじゃないかしら?」
確かにそうだった。
自分達が出会ってから幾分かの時間が経ちそれなりに言葉も交しているのに、まだ自分達は相手の名前すら知らないのだ。
まぁ、あんな風に急に現れたりしてたら名前の交換位忘れててもおかしくないのだが・・・。
「で?貴方の名前は何て言うの?」
少女が同じ質問を繰り返す。
「そう言うあんたコソ何て名前だよ、人から名前を聞くなら先に名乗るのが礼儀だろ。」
ブスッと答える少年に少女はキョトとした後
「あ、そうか、うん、それはそうだね♪」
納得したらしく少女は座っていた台座から広場に降り立ち、少年の方を向いて自分の名を告げた。
「私はドライ、悪いけど苗字とかは無いわ。生業は見ての通り盗賊よ」
そして少女はクルッとターンすると芝居掛かった一礼をした。
「それで?貴方の名前は何て言うの?」
コッチも名乗ったんだから貴方も名告りなさいよと言わんばかりの口調だったが、自分から名乗れと告げた以上は名乗るしかなかった。
少年も座っていた台座から飛び降りて少女の目の前に立ち自らの名を告げた。
嘗ての英雄の名を継いだ名を・・・・。
「俺はセオ=クロヴィティア(THEO CROVITIA)だ。俺の家の祖にして英雄と歌われた初代騎士スエズ=クロヴィティアより名前を受け継いだものだ・・・・・・。と名乗れと祖父にいわれた。」
「ジッチャマにですか。」
ドライが苦笑する。
「そ。うちの偏屈ジジィに。」
俺はこんな口上は恥ずかしい、と頭をポリポリと掻くセオ。
「さて、自己紹介はおわった。けどよぉ・・・ホントに今夜動くのか?俺は保存食すら買ってないが?」
「あなたの手の紙袋は何のためなのさ?」
「夕飯。」
「明日まで持たせなさいよぉ。これから冒険するってのにそんなに浪費家じゃぁ、先が思いやられるよ?」
「ヘイヘイ。わかったわかった。」
「もしなくなったとしても、これからお仲間がくるから、分けてもらえるでしょ。」
「お仲間?」
「そそ、お仲間。」
「…。」
セオはなんだか嫌な予感がした。
「一緒に行くならいいけど…。まさか俺を盗賊にするつもりか…!?」
「当ったりぃ〜。」
ごおおおおぉぉぉぉぉん。
セオは目の前が真っ暗になった。
「…なんてのは嘘よ。盗賊団じゃあないもの。」
「ハァ…。よかったぁ〜…。」
いくら何でも修行の旅に出てわずか1日で盗賊になるような奴など、この世の中には1人もおるまい。
「さあ、いつまでもここに突っ立ってても仕方がないわね。さっさと行くわよ〜。」
そういうとドライはさっさと歩き出したしたので。
セオもようやく後に続いて歩き出した。
2人はようやく八角形の広場の北口から外に出たのであった。


幕間〜他愛なき会話〜


「ほら、これが今回の任務にいっしょにくる人の名簿だから。」
さっきのボロな依頼の紙を渡してくる。紙切れには三人の名前が記されており、その三人の職業は様々だった。
「魔術師、精霊使い、そして、神官か。」
「うん。」
「魔術師が25歳男性。お兄さんだな。」
「かっこいいらしいよ。」
「・・・へぇ。名前がキール・イースエンド、と。得意な魔法の属性は『炎』と『雷』。頼もしいな。」
「精霊使いさんは、15歳だって。同い年だよ。」
「俺も昨日15歳になった。」
「わぁ!お誕生日だったんだぁ。おめでとう♪」
「サンキュ。で、そいつの名前は」
「リゾレット・アレスタット。女の子だって。」
「なぁ、人猫族(じんびょうぞく)ってなんだ?」
「へ?なにそれ?」
「この子の種族。エルフやドワーフなら知ってるけど人猫族って・・・・」
「わかんない。ま、会ってみれば分るんじゃない?」
「それもそうだな」
日が暮れ、月が昇る。
闇が徐々に迫ってくる。